東京地方裁判所 昭和43年(ワ)8715号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕原告の受傷と治療経過並びに後遺障害の程度
原告が本件事故によつて受傷したこと及びそのためその主張の期間(編注、一二日間)本田病院並びに東京大学医学部附属病院に入院し、かつ、昭和四二年七月二八日までは右附属病院に、さらに、その主張期間(編注、昭和四〇年八月一六日から九月二〇日)大脇病院にそれぞれ通院(実治療日数(編、注三七日)を含む)として治療を受けたことは当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、原告の本件受傷は「頭部外傷、開放性頭蓋骨骨折」及び「右肘、膝部打撲擦過傷、右下腿切創」であり、前者については硬脳膜に異常は認められなかつたものの左前頭頂部に前後方向に走る約五センチメートルの亀裂(裂開)を生じたため、右附属病院において同部位につき辺縁切除、骨折除の手術を受け、そのため、同部に二×一センチメートルの骨欠損を生じ、かつ、脳波異常、頭痛等の障害を遺すにいたつたため、昭和四二年までの二年間にわたつて鎮痙剤を服用したが、昭和四三年一〇月二日現在における医師の判定によれば、右骨折についてはすでに硬化しているのでそのまま放置されており、「外傷性てんかん」の発症のおそれが絶無ではないにしても右の程度の骨折及び脳波異常は特に問題とするに足りない程度のものとされており、原告は医師から生活上一般的な注意を受けてはいるが、すでに本件事故の一ケ月後の昭和四〇年九月二日から通学しその後、現在まで「てんかん」発作等もなく、昭和四四年四月九日の医師の診断によれば前記骨欠損は依然存在するが脳波は正常範囲に復し、以上の傷害による後遣障害の程度は自賠法施行令別表一二級該当程度と判定されていること、後者については、右附属病院及び大脇病院に通院して治療を受けたものの、膝部に長さ約二センチメートルの傷痕二個、左下髄に長さ約五センチメートル、幅約一センチメートルの傷痕を遺すにいたつたこと、以上の事実が認められ、他にこの認定を左右する証拠はない。
<中略>
過失相殺
<証拠>を総合すればつぎの事実を認定することができる。すなわち
(1) 本件事故現場附近の道路の概況は別紙図面のとおりであるが、その附近一帯はいわゆる住宅街を形成し、乙道路は被告車の進路に対して緩やかな下り坂であつて、その右側は密植された高さ約1.5メートルの生垣となつているため本件事故発生地点附近においては乙道路から甲道路に対する見通しは困難であり、また甲道路から乙道路に対する見通しも同様であること、
(2) 被告文也は乙道路進行中、その右方甲道路から乙道路に向け自転車で走行してくる原告の姿を認めて被告車に急制動をほどこしたが及ばず、被告車は滑走しながら進行し、そのままその右前部フエンダー部附近を前記のとおり進行してきた原告乗用の自転車の前輪左側部附近に接触させるにいたつたこと、
(3) 右被告車の滑走によつて生じたスリップ痕の長さは16.6メートルのもの二条であつて、乙道路は簡易舗装がほどこされ、しかも本件事故当時乾燥していたことを考慮すると乙道路が前記のとおり下り坂であることを考慮に入れても被告車の右制動開始直前の速度は、時速四五キロメートルを下るものではなかつたこと、またこの事実を前提としかつ自動車に急制動をほどこした場合、スリップ痕を生ずる前の空走時間及び過渡時間の合計は、大むね一秒前後であること(この事実は当裁判所に職務上顕著な事実である。)を考えあわせると被告文也は被告車が右のごとくスリップを開始した地点の約一二メートル前方、すなわち本件事故発生地点の約二五メートル前方の地点において甲道路から前記のように進行してきた原告を発見したものであること、
以上の事実が認められる。<証拠判断略>
以上の事実によれば、本件事故の発生については、原告が甲道路から本件事故地点の交差点に進入するにあたり、右のとおり乙道路に対する見通しが困難であるにかかわらず、乙道路の交通に十分の注意を払わなかつた同人の過失がその一因をなしていることは明らかであり、同時に本件事故の発生に関する被告文也の過失内容について見ると、前記のとおり住宅街であり、しかも見通し困難な交差点を自転車に対しはるかに高い危険性を帯有する自動車で通過しようとするのであるから前方に対する注意を十分につくすと同時に本件原告のごとき児童が自車の直前に出現した場合においても直ちに停止し得るよう徐行し事故の発生を未然に防止すべき義務があるのにかかわらず、これを怠り漫然前記の速度をもつて本件交差点を通過しようとしたため本件事故が発生したものとするほかない。そうしてこれらを基礎として考えて見ると本件事故発生に関する原告と被告文也の過失割合は、大むね原告二に対し被告文也八と認めるのが相当である。
<中略>
慰藉料
以上の諸事実並びに本件にあらわれた諸般の事情を斟酌すれば、原告の本件受傷による精神的苦痛に対する慰藉料は金七五万円と認めるのが相当である。
(原島克己)